日本のIT業界の構造的問題とは?
日本のIT業界は、世界的に見ても技術力が劣っているわけではありません。しかし、その構造には深刻な問題を抱えています。とくに「多重下請け構造」「エンジニアの地位の低さ」「新規技術の導入遅れ」などが、イノベーションの妨げとなっています。
多重下請け構造が技術進化を妨げる
アメリカ合衆国の経済はここ最近著しいものがあります。経済産業省が公開している経済的な分析では、「GAFAMを除くと、日米の経済成長に大差はない」と書かれています。アメリカ合衆国の経済成長の要因は、主にIT企業、具体的にはGAFAと呼ばれる企業の経済的影響が大きいということが読み取れます。

https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/kaisetsushiryou_2024.pdf
日本の下請け構造は技術的な進歩を大きく妨げ、GAFAMのような企業が生み出されるのを阻害されている可能性があります。
元請けと下請けの階層構造が深刻
日本のIT業界では、SIer(システムインテグレーター)を頂点とした多重請負構造が主流です。
大手企業が案件を受注し、それを中小企業やフリーランスへ段階的に外注していくため、実際に手を動かすエンジニアがプロジェクトの全容を把握できないことも少なくありません。
中間マージンの多さが報酬を圧迫
各階層でマージンが差し引かれるため、末端のエンジニアに支払われる報酬は非常に低くなりがちです。
たとえば、元請けが1人月100万円で契約しても、実際に作業する人には30万円前後しか支払われないケースも。
エンジニアが軽視される文化
日本のエンジニアは絶望的なまでに重要視されません。
文系出身の営業主導の現場が多い
エンジニアよりも営業職が評価されやすく、技術者が戦略や意思決定に関われない環境が多く存在します。
そのため、プロジェクトの品質や技術選定よりも、コストと納期が最優先される風潮が根強いのです。
スキルではなく年功序列・肩書が評価される
能力よりも社歴や肩書で評価される企業が多いため、技術力のある若手が活躍できる環境が整っていません。
スペシャリストよりもマネージャーになることが出世の道とされ、技術の道を極める文化が育ちにくいのが現状です。
海外との競争力を失っている現実
新しい技術の導入に消極的
日本のIT企業は、クラウド、DevOps、AI、コンテナなど新しい技術に対するキャッチアップが遅れています。
これは、**業界全体が「失敗を恐れて変化を嫌う体質」**にあることが大きな原因です。
グローバル展開の遅さと英語力の壁
世界と比べて英語での情報発信・取得に弱く、世界標準の技術やフレームワークに追いつけないこともしばしば。
グローバル市場で活躍するIT人材が育ちにくく、結果として海外企業との競争に取り残されています。
人材育成と評価制度の問題
IT教育の遅れ
小中高、大学レベルでのプログラミング教育が遅れており、現場に出てから実務で学ばなければならないケースがほとんど。
また、企業内教育もコストと見なされ、外注頼りで人材を育てようとしない文化が根付いています。
フリーランスや転職者に冷たい市場
日本では一つの会社に長くいることが美徳とされるため、転職やフリーランスをネガティブに捉える傾向があります。
そのため、柔軟なキャリア形成やスキルの流動化が進まないのです。
構造改革へのヒント:現場から変えていけること
変革にはトップダウンの構造改革が必要ですが、現場レベルでもできることはあります。
- 受託からプロダクト開発への転換
- 社内で技術コミュニティを育成
- 若手の意見を取り入れる文化の導入
- オープンソースや海外技術への積極的な参加
これらを一つずつ積み重ねることが、閉塞感ある日本のIT業界を変える第一歩になるかもしれません。